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大阪地方裁判所 昭和51年(行ウ)17号 判決

原告 中岡順了

被告 東大阪市

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告は原告に対し金四七、七二六円を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり陳述した。

被告は、東大阪市加納五〇一番田一五五平方メートルの土地につき、昭和四三年六月二二日受付をもつて同月二〇日付売買を原因とする北田政義から原告への所有権移転登記が存在するということで、原告から昭和四四年度固定資産税一、三〇九円都市計画税五六四円、昭和四五年度固定資産税一、八三三円都市計画税九〇二円、昭和四六年度固定資産税二、五六七円都市計画税一、四四三円、昭和四七年度固定資産税三、五九四円都市計画税二、一一四円、昭和四八年度固定資産税五、〇三〇円都市計画税二、八九〇円、昭和四九年度固定資産税七、五四〇円都市計画税二、八九〇円、昭和五〇年度固定資産税一二、一六〇円都市計画税二、八九〇円を徴収した。しかるところ昭和五〇年二月七日大阪高等裁判所における右北田と原告との間の訴訟において、右土地の所有権は売買により北田から原告に移転したことがないとの理由により北田は原告に対し前示所有権移転登記の抹消手続をせよという判決があり、右判決は確定し、昭和五〇年四月八日右所有権移転登記は原因錯誤により抹消された。

結局被告は前示徴収の各税金合計四七、七二六円を法律上の原因なくして不当に利得したことに帰するから、原告は被告に対しその返還を求める。

被告は、主文と同旨の判決を求め、答弁および被告の主張として次のとおり陳述した。

請求原因事実中、被告が原告より昭和四四年度分から昭和五〇年度分までの固定資産税および都市計画税(以下本件租税という)を徴収したこと、原告主張の所有権移転登記が昭和五〇年四月八日原因錯誤により抹消されたことは認めるが、その余は争う。本件租税は、地方税法三四二条、三四三条、三五九条、七〇二条、七〇二条の五および七の規定により、被告が、各年度の初日の属する年の一月一日現在の不動産登記簿上の所有者である原告に対し賦課したものである。よつて本件租税は右有効な課税処分に基づいて徴収されたものであるから、これを原告に返還すべき理由がない。

理由

成立に争がない乙第一号証によれば、原告主張の土地につき昭和四三年六月二二日受付をもつて同月二〇日付売買を原因とする北田政義から原告への所有権移転登記がなされていることが認められ、右登記が昭和五〇年四月八日受付をもつて抹消されたこと、被告が昭和四四年度分から昭和五〇年度分までの本件租税を原告から徴収したことは、当事者間に争がない。

原告は、その後大阪高等裁判所の判決によつて北田から原告への右土地所有権の移転がなかつたことに確定したので、被告は本件租税を不当に利得したものである旨主張する。しかし、地方税法三四二条一項、三五九条によれば、固定資産税は固定資産に対し当該固定資産所在の市町村において課することとし、その賦課期日は当該年度の初日の属する年の一月一日とする旨定められており、また同法三四三条一項では、固定資産税は固定資産の所有者に課すると定められているところ、同条二項によれば、右固定資産の所有者とは、土地については土地登記簿に所有者として登記されている者をいうと定められている。すなわち、土地に対する固定資産税の賦課については、土地に関する権利関係の調査、確定の煩を避けるため課税技術上いわゆる台帳課税主義がとられているのであつて、登記簿上所有者として公示されている者は、真実の権利関係の如何にかかわらずその年度の固定資産の納税義務者として決定されているのである。また同法七〇二条、同条の五および七によれば、都市計画税についても前記固定資産税と同趣旨の定めがなされている。

そうすると、被告が昭和四四年度分から昭和五〇年度分までの本件租税につき、その間の登記簿上の所有名義人である原告に対しこれを賦課、徴収したことは適法であり、したがつて被告は法律上の原因なくしてこれを利得した者には該当しないから、たとえ原告が右期間真実の所有者でなくまたその後右登記が抹消されたとしても、本件租税を原告に返還すべき義務はない。

よつて原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用の上、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村正策 辻中栄世 山崎恒)

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